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月明かりだけが頼りの稽古場には、村木と斎藤。
この2人だけしかいない。
もちろん、昼間の試合をした時の見物客はいない。
既にお互いの手の中には獲物を携え、斎藤は己の得意分野である居合の構えを。
村木は昼間の時と違い右手ではなく獲物を左手へ持ち替えて、上段の霞の構えをとる。
この霞の構え(かすみのかまえ)とは自分の口あたりで
獲物を水平にして持った構え。であり確実に相手の眼をねらう。
人を殺すための構え。
佐々木の時と違い村木は、斎藤に対して遠慮という言葉を作らない。
この試合に関して、合図を出す存在など無用
それぞれの呼吸を合わせ
それぞれの時機を見て足を踏み込む。
「ふっ!」
最初に踏み込んだのは村木。
このまま無防備に突っ込んでしまえば、斎藤の居合の餌食になるのが常だ。
村木は居合だけで終わるつもりはなく
一閃
見えないほどの鋭い斬撃が襲ってくるが紙一重、
木刀の風圧で何本か己の髪を持っていかれながらも
肌にはカスリもせずに避ける。
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