きみがだいすき。

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「か、かわいい・・・かわいすぎます・・・」  話に夢中のリビング組はもちろん篠原の言動など気が付かない。 「ほんとに、お前って・・・」  そのつむじを片肘ついて眺める片桐はしみじみため息をつく。 「そうそう。そこから『こーんなに』『いやいや、ぼくはもっとこーんなに』って、どれだけ好きかの表現で戦いが始まるのよね、延々と・・・」  きゃっきゃきゃっきゃと、笑い合いながら、女性陣は一つまた一つとサクランボを摘み上げた。 「好きすぎて決着がなかなか付かなくて・・・」 「最後は疲れたチビウサギが眠って終わりだったわよね」 「そそ。半分寝ぼけながら『おつきさまにとどくぐらい きみがすき』ってチビウサギがようよう言って眠り込んだのを、デカウサギが抱き上げてベッドに運んで、『ぼくは、きみのこと、おつきさままでいって・・・かえってくるぐらい、すきだよ』って囁いてキスするんだよね!!」 「うっわ~、あっまーい、ベタ甘!!」 「ああ、恥ずかしすぎて、血圧上がりました!!」  三人の盛り上がりっぷりに、中村は石のように固まったままだ。 「ええと・・・」 「おおむね合ってる。そして、これを喜々として親父が詩織に読んでたことを思い出してしまった・・・」  この絵本は、実家で妹が小さい頃に父が熱心に、いや、しつこいくらい読み聞かせていた。  しかも、途中からはチビウサギを娘に演じさせ、己はデカウサギになってやに下がっていたという情けない場面まで思い出す。 「あの、最後のチューがやりたいというか何というか・・・。親父的にはな」 「それ、いつまで続いたんですか?」 「小学・・・、一年か二年くらいかな。知恵が付いたのか、飽きたのか・・・。さりげなーく回避されて、それでもやろうとしたら、とうとう蹴りを入れられてそれっきり・・・」 「それは、残念でしたね・・・」 「いや、あれは親父が悪いんだよ。あまりにもミエミエで」  詩織の女王気質は、そのあたりからめきめきと進化していった。 「まさか、あの拓郎様にそんな一面があろうとは・・・」  片桐の父である拓郎は長田家令嬢に一目惚れして口説き落とし、更には妻にするために一族と闘った男で、実は長田家子飼いの者たちの中には彼に尊敬の念を密かに抱くものも多く、篠原もその一人だ。 「それにしても、・・・使える」
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