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同じサークル内の出来事だが、その少女とは学部が違いとくに関わりがなかったため、村木が同じ本を受け取ったことを知らなかったらしい。
「・・・ああ」
「次、行ったのね・・・」
「おそらく、十日も経たなかったような気もするんですけどね・・・」
「まあ、お年頃だしな」
命短し、恋せよ男~♪と、池山が妙な節回しをつけて歌う。
「でも、その子は嬉しかったんだ、この本」
「はい。大変喜んで、その後学内公認のカップルになりました」
「感覚の違いよね、まさに」
橋口は物憂げにため息をついたが、本間は拳を固く握りしめ、鼻息を荒くする。
「私も、貰ったらだめ~。後ろ百メートルダッシュだね!!」
「ひ、百メートルダッシュ・・・」
がっくりとひそかに肩を落とす男が一人。
武士の情けで、片桐と中村は自然をそっと逸らした。
そんな大混戦の会話が続く中、携帯電話の着信音が鳴った。
「あ、わり。俺」
ひょこっと軽く頭を下げて池山が立ち上がる。
勝手知ったるなんとやらでそのままダイニングを突っ切り、鳴りっぱなしの携帯電話を握ったまま足早に廊下に出て扉を閉じた。
「・・・あれ、江口さんだねぇ」
「ですね」
着信音で聞き分けた本間たちがにんまりと笑う。
「江口さんも忙しいですね。私、まだ数えるくらいしかお会いしたことないです」
「そうだね。なんだか最近かなり便利に使われているというか・・・。都合のいい男と化しているというか・・・」
「いえ、江口さんの能力が仕事を呼んでしまうのでしょう?受付チームにまで噂が来てますし」
橋口の勤める受付窓口はほとんど派遣への業務委託で、選りすぐりの美女を揃えていると言っても過言ではない。
「・・・ってことは、狙われているんだ、江口さん」
「そうね。もろもろの意味で美味しそうだと」
一部の女性には狩りのためにあえて派遣で受付業務に就いたと公言している者もいる。
「ターゲット、ロックオン、ですね」
「ですねえ」
「どこまで逃げても、次が追ってくるってな感じ?まさにモテ地獄だねえ」
のどかに女三人は茶をすする。
「・・・女って、ほんっと怖いな・・・」
明後日を見ながらぼそりと片桐は漏らす。
実際、ロックオンされて掴まった経験のある身としては、江口を他人事と思えない。
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