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「・・・啓介さん、これはいったい・・・」
「さっきの電話で何があったかは知らんが、行くんだろ、台湾」
「は?」
ますます意味がわからずぽかんと口を開けていると、ダイニングから立ってコーヒーを淹れ始めた本間が肩をすくめた。
「何がって、もちろん『どんなに好きだかあててごらん競争』じゃないの?池山さん、ものすごーい負けず嫌いだもん」
負けず嫌いで済ませて良い話なのか。
篠原は軽い頭痛を覚えて額を押さえる。
「さすがに月は無理ですが、台湾なら行って帰って来れますねえ」
食器棚からコーヒー用のカップを取り出しながら、橋口も肯く。
「・・・足が速くて軽ければ、行って帰ってこれるとも?」
回収した食器類を洗い始めた村木が首をかしげた。
「あ、バビロンまで何マイルね。そうそう。そんな感じ」
「・・・比喩じゃなくても、池山さんならろうそくが消える前に行って帰ってこられそうですね・・・」
「そこが、池山さんの凄いところね」
「ついでに契約まで取ってきそうな気がします」
それは、片桐達も同感である。
「さ、コーヒー飲んだらお開きにしようか」
そう言って、小さめのカップに次々とコーヒーを注いだ。
「で、お前はこの後どうするんだ?」
橋口と村木はもう少し本間に話があると言って残った。
二人は現在、それこそ歩いて帰れる距離のマンションにそれぞれ入居しているため、よく行き来しているらしい。
中村は池山に言い忘れたことがあったと一足先に部屋を後にしている。
見送りがてらにエレベーターを待ちながらふと疑問を口にした。
「・・・お前、まさかこの後仕事か?」
「そうです。明日は軽井沢でちょっとしたパーティがあるので」
ちょっとした、という表現は建前で、庶民の感覚で計り知れない規模と豪華さが篠原の仕える長田家の恐ろしいところである。
「ある程度準備は終えていますから、お気になさらず。今から現地に向かいます」
既に時刻は夜十一時になろうとしている。
もう夜中なので車の動きはスムーズだろうが、二時間半ほどかかるだろう。
「篠原・・・。お前なあ」
「わかってます。でも仕方ないじゃないですか。ものすごく綺麗な桜桃だったんですから」
「・・・は?」
富貴子夫人の供で回った先で出会った果物は、勧められて義理で口にしたところ、驚くほど美味かった。
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