きみがだいすき。

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 くるりと優雅な身のこなしで背を向け、壁のボタンを押して既に到着していたエレベーターのボタンを押す。 「おやすみなさい、良い夢を」  夜の匂いを色濃く残して、彼は去っていった。  階段を上り、廊下を歩く間、二人は無言だった。  と、いうより、春彦のこわばった横顔に、どう話しかけて良いのか解らなかった。  部屋の前へ辿り着くと先に歩いていた春彦がポケットから鍵を取り出して解錠し、振り返ることなくするりと中に入っていく。  一つため息をついてから片桐が閉じかけたドアに手を掛けて一歩踏み込むと、いきなり腕を掴まれた。 「・・・!」  気が付いたら玄関の壁に背中を叩きつけるように押しつけられていた。  春彦の、弾んだ息が、首元をくすぐる。  「ハル・・・?」  両手で頬を挟まれ、頭を抱え込むように引き寄せられた。 「ん・・・っ」  熱い唇が、片桐のそれをふさぐ。  下唇に軽く歯を立てられて口を緩めると、するりと舌が入ってきた。  いつになく性急な求め方に、片桐自身も煽られて応える。  背中に手を回して強く抱きしめると、熱い身体がしなった。 「んっ、んっ・・・。啓介さん、けいすけさん・・・」  全身で求められ、靴を脱ぐいとまもない。  唇から漏れる吐息と水音が、しんと静まった玄関に響く。  そして、春彦の指先がのど元に降りて、シャツのボタンにかかる。  二人とも仕事帰りに本間の元へ立ち寄ったので、Yシャツにスラックスのままだ。  唇を合わせたまま、懸命にボタンを外そうと試みているようだが、ボタンホールが固くて簡単に外せない。 「・・・ハル?」  背中を緩く撫でてあやすが、焦れた春彦が力任せに襟元を開いた。 「ん・・・っ」  びっと裂けるような音とともに、小さな物が廊下にあたって転がっていく音も聞こえた。 「・・・あ」  シャツに手を掛けたまま、春彦が呆然と固まる。 「・・・ごめんなさい、おれ・・・」  一転して青ざめたその顔は、まるで憑き物が落ちたかのようだ。 「大丈夫。気にするな」  つむじに唇を落とすと、そのまま額を肩に押し当ててうなだれる。 「時々・・・。篠原さんが、気になって・・・」 「うん」  首筋を優しく愛撫しながらこめかみに唇を押し当てる。
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