37人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
ガラスの割れる音。すぐ後にヒステリックな金切り声。そしてしばらく経ってやってくるのは、低い怒鳴り声だ。もう全部、わかっている。
僕は布団を被って「大丈夫、大丈夫」と繰り返した。これも、いつものことだった。
元々は、音が聞こえなくなるように、という『おまじない』のつもりだった。けれども今は、あの子を呼び出す『呪文』のようになっている。
熱がこもった布団の中が、僕の唱えた「大丈夫」でぎゅうぎゅうになった頃、コンコンと窓ガラスを叩く音がした。
ほら、今日も来てくれた。
僕はその音を合図に、布団から飛び起きる。冷たい空気に包まれて、僕はまるで水の上を跳ねるトビウオのように、ぴょんぴょんと窓辺に移動した。
急いで窓を開けると、にっこり微笑む彼女がいた。
「遅くなっちゃった」
彼女の言葉と共に、ほんの少しの雨粒が部屋の中に入ってくる。
「わ! 雨降ってるの?」
「そう。雨だからかなぁ、気持ちまでジメジメしちゃって、参っちゃうよね」
そう言う彼女の瞳は、僕ではなく一階の窓を見ていた。そうかと思えば、急に僕の方に身を乗り出してきて、
「それにしても、君は今日は顔色がいいね!」
なんて言うもんだから、心臓がドキリとする。顔色がいい理由なんて、一つしかなかった。
「てんちゃんに、会えると思ったから」
最初のコメントを投稿しよう!