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「 これ、あんたの車?」
日曜日に特別召集された職員会議。
普段は電車で来る高校に車で通勤した朝だった。
「 ああ、そうだが 」
「 俺、この車憧れなんだよな
わざわざ輸入したのか?」
俺は朝から乗って来るつもりだった国産車の鍵が見つからなかった事のイライラが続いていたので思わず無愛想に
「 君は?誰?」
と質問を返した。その薄紫のニッカポッカを履いた格好から何故彼がここにいるのかはわかる。
「 俺?俺は一年に光って子がいるだろう?今年入った。藤間光、あの子の父親、お父さん 高光って言うんだ 」
「 え?父兄?」
俺は頭の中でページをめくる、確か藤間、藤間、
「 ああ、4組の 」
「 あっ知ってる?そうだよ!」
嬉しそうに破顔したその顔はその子の資料に貼った写真を思い起こせるものだった。
「 改修工事、日曜は休みのはずだが 」
と聞くと、現場の遅れを取り戻すために音の出ない工事が今日入っているという返事だった。
「 現場監督は来てるのか?」
と尋ねると1時間で終わる工事だから俺が来たんだと応える。
無駄な長話に時間を確認すると後10分で会議が始まる時間だった。
「 失礼 」
と言いながら彼の横を通り過ぎようとすると、また彼から話が振られた。
「 なぁ、あの車あんたが帰る時に少し乗せてくれないか?」
あまりな申し出に言葉がすぐ出ない。
逡巡したが学生の父兄と特別な行為をするべきではないと妙に硬い判断をした俺は、
「 悪いがそれはできないな 」
と断った。
「 そっか 」
と残念そうに肩をすくめた彼はそのまま俺の車を眺めている。少し車が心配だったが、時間もないのでそのまま俺は正面口から校内に入った。
その話はこれでは終わらなかった。
なぜなら会議が終わった後、三枝先生を久しぶりに昼飯を食いがてら送ろうと駐車場に向かうと、そこにはまだ薄紫の鳶の作業服を着た彼がいたからだ。
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