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「 何してる?」
流石に少し声を尖らせて聞くと、
「 あ、終わったんだ。待ってたんだよ、せめてエンジンの音聞きてえなって、思って 」
「 何を……」
勝手な申し出に言葉が詰まると、
横から三枝先生が彼に声をかけた。
「 もしかして一年の藤間君のお父さんですか?」
驚いて振り返った俺に、
「 毎日、授業が終わった後4組の教室の外から声かけられるんです 」
と微笑みながら答える。
「 仕事中に?」
とまた声が詰問調になるのは仕方がない。俺は一応この学校の管理者の立場だから。
「 いやちょうど休憩の時間だったから 」
と頭の手ぬぐいを外しながら言い訳する姿は手ぬぐいの下の金髪と相まってまるで高校生そのものだ。
これが父親?高校生の?どう見ても30そこそこにしか見えない。
親しそうに言葉を交わす三枝先生。
「 あはは、それで高光さん、この教頭先生の車に乗りたいって言ったんですか?」
「 そうなんす、けどソッコー断られちゃって 」
名前呼びなのか?俺は一つ咳払いすると、
そろそろ行きましょうと話の腰を折った。普段ない俺の態度に少し驚いた三枝先生が気まずそうに彼に挨拶をする。
「 光君頑張って予習してきてますよ、このまま続ければ心配ないと思うから高光さんも安心して 」
と声をかける。
俺は今の自分のとった態度に気持ちが落ち込んでいった。
理由がわかってるだけに余計に沈む。
漂った気まずい沈黙とそれを払拭するような彼の声。
「 あ、すんません、足止めしちゃって、俺ここでエンジンの音だけ聞いたら帰ります 」
なぜか引き止めなきゃいけない気がした。それでも黙り込む俺の顔を不思議そうに見ると三枝先生は、
「 先生、高光さんなら大丈夫ですよ、少し一緒に 」
その言葉に破顔した彼の顔は邪気のない綺麗な笑顔。
ほんの少し前の心の澱が綺麗になくなるような晴れた気分は、三枝先生のおかげか彼の喜んだ顔のせいか。
トクンとした心の音を俺は聞かない事にした。
そうだよ、まだ俺は三枝先生を諦めちゃいないんだ。
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