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真夜中だった。
ベッド脇に置いてある目覚まし時計のカチッ、カチッという音を聞きながら、僕はベッドの中から天井を見つめた。
隣のベッドからは母のゆったりとした深い寝息がきこえる。
その時、街はずれにある教会から十二時を告げる鐘が不気味にボーン、ボーンとなり響いた。
僕は鐘の音が聞こえると、自分のベッドからそっと抜け出した。隣に眠る母を起こさないよう、物音を立てずに寝室をそっとでる。
廊下にはひんやりした空気が流れていた。真夜中の家は静まり返り、時おり冷蔵庫のブーンという音だけがする。
リビングでは窓辺に飾られた写真が、月明りに照らされていた。だけど、逆光で写真には暗い影がかかり、よく見えない。
僕はリビングから庭へ出られる大きな窓を開け、洗濯するときに履く用のサンダルを足につっかけ、外へ出た。
濃紺の空に真ん丸の月が浮かんでいる。
「よう、今日は遅かったじゃねえか」
窓から外へ出て二・三歩歩いたところで、頭上から低く、ガサガサとしゃがれた声がした。
「そんなことないだろ。ちゃんと鐘が鳴ってすぐ来たはずだ」
僕は声のする方を見ず、遠くに見える闇の中にぼんやりと浮かぶ木を見つめたままそう答えた 。
頭上からバサバサッとはためく音が聞こえ、目の前にしゃがれ声の持ち主が舞い降りた。
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