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「違うな。三分遅れだ。今は十二時三分。鐘が鳴り終わる前にここに出てこいと言っただろう」
さっきと同じ、不気味で背筋がゾッとするような声でそいつは言った。
月を背にしてそいつはギロリと上から僕を見下ろしてにらむ。
全身真っ黒で身長は僕の三倍くらいはある。夜の闇に紛れて顔がここからじゃ見えないが、きっといつものように何の感情も読み取れない冷たい表情をしているのだろう。
僕が何も反省している様子を見せないでいると、
「まあいい、準備しろ」
とだけ短く言い、漆黒の翼を再びバサッと広げた。僕は声を出さず顎を少しだけ引いて軽くうなずいた。
風が体に吹き付け、耳元でびゅうびゅう唸る。
鱗のように鋭く固い毛に覆われた背中にしがみつき空を駆け巡るなか、ふと、そいつが言った。
「今夜は星々がざわついてる。何か起こるかもしれない。油断するな」
何かって、何だよ。心の中でそう呟いた。
僕の前にこの怪物が現れたのは今から六か月前。
今夜みたいに雲のない満月の夜だった。
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