第8話 ひみつの核心

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 さて、前置きはここまでにして、そろそろ話を本題に移そう。    直翔は、小学時代から無口で大人しい男子として知られていた。いつも教室の隅の方で本を読んでいるような子だった。  それというのも、彼自身が不必要に人と関わることを、極力避けるようにしてきたからだ。    直翔は、『僕は、分かっているんだ。人は、平気で嘘を吐くんだよ』とよく言っていた。彼の持つ能力が、彼を諦めさせてしまったのだと思う。  なるべく人と関わるのを避けていた。  できれば、人の感情を読み取ってしまいたくなかったから。  そんな直翔にも、唯一、親友と呼べる存在がいた。  神崎(かんざき) (よう)という男だった。  神崎と直翔は、小学一年時に同じクラスになって以来、中学三年時に至るまで一度も違うクラスになったことがなかったらしい。所謂、腐れ縁というやつだ。  神崎は明るい好青年で、いわばクラスの中心的存在だった。直翔とは正反対の性格をしていたが、不思議と息はぴったりあっていた。彼らはお互い何の部活にも所属していなかったこともあり、毎日一緒に下校するぐらい仲が良かった。  変わ映えのしない平坦な日々を過ごしていたある時、直翔に転機が訪れた。  中学三年生の春、彼は恋に落ちた。  相手は、同じクラスメイトの桃瀬 綾乃だった。    かわいらしく愛想の良い彼女がクラスのアイドル的存在になるのにそう時間はかからなかった。そして、直翔も他のクラスメイトの男子たちと同様に彼女に惹きつけられた。  幸先が良いことに、直翔は恋を自覚してすぐに桃瀬と同じ図書委員になることができた。同じ委員会に入ると、何かと接点が増える。彼は機会があれば彼女に話しかける努力をした。あの人見知りの直翔からしたら、本当に、精一杯頑張ったんだと思う。勿論、神崎にも相談した。頑張れと笑って、応援してくれたそうだ。  直翔の努力は功を奏し始め、着実に彼と桃瀬との距離は縮まっていった。  春が終わるころ、ついに気持ちを抑えきれなくなった彼は彼女に告白をした。二人はめでたく付き合うことになった。直翔はすぐにそのことを神崎に伝えた。その時の彼は、親友もとても喜んで、祝福してくれたと嬉しそうに語っていた。
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