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「あんた、楽しくないのかい?」
「もちろん、楽しいに決まっておりますよ」
表情などない故に、分からねど、男の眼窩では楽しいようには見えなかった。
「それなら、一緒に歌って踊ろう」
「そういう気づかいは結構ですよ。私はこの村の長で、すべての賢者というか愚者の女神なのですから」
男は驚いた。こんな自由で、生者からすると無法地帯ともいえるこの場所で、神などという、道徳や規則に直結する、宗教的な言葉を聞くとは思ってもいなかった。
「女神ね。何をつかさどる女神何だい?」
「痴愚です」
「痴愚。痴愚とは何だ? ちぐはぐの略かい」
「痴愚とは、ここの村人のような人たちですよ。果てしなく愚かで、しかし、果てしなく幸せなね」
「へえ、そりゃあ勉強になった。ところで、あんたの名前は?」
「私は、エラスムスと申します」
「ほう、良い名前じゃないか。それでは、俺たちの出会いに乾杯だな」
「ええ、喜んで」
男たちは、高らかに互いの盃を打ち合わせた。
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