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まさに、それは天使だった。そのまま見つめていると、どこかに連れていかれるのではないかと、男は妄想した。
――視界が揺れる。
男の頭が、かき乱される。足元がふらつき、地に膝をつく。頭を締め付けるような痛みが襲い掛かる。頭を抱え、うずくまった。
光を感じる。春の陽光に似た、温かな光だ。歯を食いしばり、頭をあげる。そこには天使がいた。
全身真っ白で、厳格な微笑みを湛えている。
それを見た瞬間、男の脳内に、大量の情報が流れ込んだ。男の故郷と家族、異形の化物と土地、息をする宇宙、光に満ち溢れた世界。
男の頬を涙が伝う。理解を超えた存在に、海馬が限界を迎えた。
言葉を持たぬ化物のように叫ぶ。顔の穴という穴から、体液が流れ出る。しかし、それでも天使から目を離さない。否、離せない。
脳を裂く痛みが走る。
「アアアッ! コロセ! コロシテクレ!」
痛みにもがき、頭をかきむしる。髪の毛が抜け、頭皮が血と共に枯れ葉に落ちる。ついに滑らかな白色が露出した。あのキノコによく似た、綺麗な色である。
天使が男に手を伸ばす。血に染まった眼球に、御姿が映った。そして、次の瞬間、男のすべては闇に葬られた。
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