二、知らぬ海の不知火は、此の空蝉にむなしく燃ゆる

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 宴が終わりを告げる。骨粗鬆症の老人の骨が折れてしまったからだ。それでも、熱は冷めない。 「アハハ、いやあ、年甲斐もなく、はしゃいでしもうた!」  左足と肋骨が、折れた骨が言う。 「へへっ、でも爺さん輝いてたぜ、特に頭がな!」 「何を言っているのかしら、頭が輝いてるのは皆じゃない!」 「本当だ、いやあ参ったねえこりゃあ」  太陽に光る頭を撫でる。すると、皆大笑いした。もちろん、男も新入りにも関わらず、人一倍大声で笑う。その声を聞いた誰かが、笑いが落ち着いた頃に口を開いた。 「おや、あんた新入りかい?」  ドスの効いた親父の声だ。 「おっ、分かるんですか」 「もちろんわかる。それより、敬語なんぞ使わんでええ。ここに来たもんは、皆、平等だからな」 「おう。ところで親父、ここはどこなんだ?」 「ここはメメント森だ」 「森? 森って、あの木が沢山、生えてるとこだろ」 「おう、もちろんだ。だけどなあ、細けえこたあ気にすんな。それが、ここの風習ってもんよ」 「そういう風習、俺は好きだね」 「坊主、早速馴染んできてるな。ええ、感じじゃねえか。よしっ、じゃあ儂が、集落を紹介してやろう。ついてこい」  手招きする。男は、豪快に歩く親父の後ろについて行った。  そのうち、平らな地面が盛り上がっているのが見える。目を凝らしても、それが何なのか、男には皆目見当もつかなかった。  歩いていくと、盛り上がりは段々鮮明になった。木の棒があって、襤褸布が張ってあり、荒縄で固定されている。まるで粗末なテントが、地面から生えてきたようだった。家々は、筍のように群生する。 「ここが、儂らん村だ」  そこには、家しかなかった。娯楽の場も、生活の場も整っていない。気持ち程度の人工物が並ぶばかりで、生命を感じない。まさに死んだ村だ。男はその様子を見て、つまらないと思った。
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