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「優月にぃってほんと綺麗、見てるだけで幸せ。ノエルが羨ましい。死ぬほど羨ましい」
「綺麗なんてとんでもない。君の14個も上なんだから……もうとっくに青春は終わってる歳だよ」
僕はそう言いながら自分の手を見た。記録がないから確実なことは分からないけれど、僕の指は間違いなく14年前より皺が増えたし、相応に使い込まれた姿になっている。思うことも、考えることだって変わった。髪型だって変わった。
でもそれは悪いことじゃないんじゃないかなって思う。なるようになるしかない。それを受け入れる余裕があるし会う度に綺麗って言ってくれる僕を慕ってくれる子もいるし……僕にかかった時間と同じくらいノエルも成長していて、環境が変わっていって……変わらないものもあって……いまはそんな時が愛しい。
「まるでそうは見えないし、髪だってこんなに綺麗! 地毛でしよ? 俺のヅラだし!」
そんなことない、ってつい言ってしまいそうになるけれど、慕ってくれている子に向かって謙遜するのも彼の自尊心を深く傷つけてしまうことになるかもしれないと思ったから、ありがとう、と困ったように笑った。
「どうぞ」
切り出したピースケーキを出すと、きいちゃんはうわあ、と声を上げる。
「なにこれ!」
「作ってみたの、よかったら食べてみて」
「え! 優月にぃの手作り?」
「うん、僕の手作りってことになるけど……」
なんかみなまでそう言われるとちょっと照れるなって思ったら顔が熱くなった。隣町のお菓子屋さんのケーキには遠く及ばないけれど、それなりに頑張って作った。
「コーヒーにも合うと思うよ」
「食べるのもったいない……でも食べないのももったいない……優月にぃの手作り……ありがとう優月にぃ! いただきます!」
笑顔がきらっきらしてる。太陽を反射する水しぶきみたいに。控えめな口調のロリータファッション男子の設定はどこにいったんだろう。でもきらきら笑顔もその服に合ってるよきいちゃん、っては言わないでおいた。多分この子はそれを分かってる。端的に言うとセンスがいいし、自分を客観的に見るのが上手い。
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