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「きいちゃんもそう思う?」
「思う。まあ大体想像つくけど。あいつ分かりやすいから」
「本当?」
できたらその想像とやらを聞いてみたい。でも大人が首を突っ込むことでもないだろうっていう気持ちが歯止めをかける。ノエルたちにはノエルたちのコミュニティがあって、彼らはそれに干渉を許さない時期になってしまった。ちょっと寂しいけどそういうものなんだろうって言い聞かせている。
「これから面白いことになるかもしれない」
きいちゃんは口の端についているいちごのホイップクリームを舌先で舐め取りながら、なにかに思いを馳せるように笑うんだった。僕はなにも言わなかった。
「ねえ、優月にぃの話を聞かせてよ」
「僕の話?」
クリームの付いたナイフや食器を片付けながら、僕ははぐらかすように微笑する。
「ノエルとはいつから一緒なの?」
目を輝かせる彼は本当に噂話やお喋りが好きな女の子みたいだった。
「俺くらいの時ってどんなことしてた? 恋人はいたの? 好きな子とか! 何やってたの?」
好奇心に満ち溢れている彼は本当に楽しそうだった。こんなふうにすべてが綺麗に輝いていた時代が僕にもあった。ここまできらきらしてなかったし、苦い思い出ばかりだけど。でも、すごく幸せなことも沢山あった。
そういうことを思い出すとやっぱりノエルとの出会いは僕にとってかけがえのないものだ。今の僕の幸せは、ノエルが運んできてくれたって言っても過言ではない。
「さあ、どうだったかな?」
「今日は聞くまで帰らないからね!」
くすくす笑ってごまかした。
店内のBGMはゆったりとしたコントラバスのJAZZ。静かな昼下がり。
もう1時間もすれば、ノエルが帰ってくるだろう。
それまで彼に付き合うのも悪くない。
窓の外の天気は快晴だけど、まもなく雨が降るだろう。
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