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目が焦点を合わせることを拒絶しているように視界が不安定になっている。体が本当に動かなかったが、男が再び顔を寄せてきたのを見て口をぎゅっと結んで顔を反らした。
意地でも口を割らない、と思っていたのに。
「残念だねー」
男は口笛でも吹きそうなほどの楽観的な声でそういうと俺の腕を頭の上で一纏めに拘束して、空いた片手で鼻を詰まんできた。恐怖に息苦しさが加わって、頭の中はぐちゃぐちゃだった。息をしたい。でも口を開けると舌が入ってくる。それは嫌。でも呼吸をしたい。
「……っ、う……っ……」
苦しい。辛い。
目をぎゅっと瞑った。口が酸素を求めてついに開いてしまう。
男の舌がまた入ってくる。
なにかがプツン、と切れてしまった。
涙はとめどなく流れているけれど、それが自分のことなのか釈然としない。
口内を荒らされている感覚はなくて、気持ち悪さも遠のいていく。
心に湧いていたいろんな色の感情がみるみるうちにモノクロになっていった。
「ふ、……っは……っ……」
服の隙間から男の手が入ってくる。脇腹をいやらしく撫で付けられている気がする。
「あら、抵抗しないの」
つまんない、と男は言った。
言葉の意味も掴めない。
ぱしん、という衝撃が頬に走った。
「もっと面白い反応してよ」
叩かれたんだとおぼろげに思う。
もうどうでもいいや。
そう思ったら、すぅっと意識が遠のいていった。
続
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