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「いってえ!」
ケツに衝撃が走った。勢いよく前方に体が投げ出される。雨降り地面の水たまりに、ばしゃりとロウファが突っ込んだ。頭上に雨がぱたぱたと落ちてくる。
「なにすんだよ!」
腰を手でさすりながら、睨みつけるような顔で振り返った。
「お前がなにやってんだよ、気持ち悪い」
ずっと想いを馳せていた人物が目の前にいる。目の前にいて、自分を見下ろしていた。
体中が一気に熱くなる。同時に放たれた言葉の意味を考えた。
気持ち悪い……?
「……はあ?」
真っ赤な顔で彼を見上げて睨みつけた。声は裏返って震えていた。
「んだよてめえ! 初対面の人間にその言葉はねえだろ!」
恥ずかしさを暴言で隠した。彼は呆れ顔で俺を見ている。
「初対面? どこが」
どこが? そう言われて心臓がどきっと跳ねる。これが恋? とかいうやつではない。警察に追い詰められた犯人のような気持ちになる。背筋が凍りついた。こんなに全身で浴びている雨の音が聞こえない。心臓がばくばくする。
「お前いっつも俺のこと見てるだろ、気持ち悪い」
うわ全部ばれてた。
辛辣な顔でそんなこと言われるなんて誰が想像した? しかもずっと憧れていた人に! 胸がずきずきした。突き刺さったカッターナイフをその状態で九十度くらいひねられたような痛みだ。いやそんなこと実際されたことないけど。血ぃ吐きそう。
「また気持ち悪いって言った……!」
声が震える。
なんだか目が痛い。目が痛いと思ったら鼻水が出てきそうになった。
「だって気持ち悪いんだもん」
「うるせえ!」
全身冬先の雨で冷たいのに、目の周りだけぶわっと熱い。熱くて痛くて、視界がゆらゆらする。前髪から雨が滴ってはらはら落ちた。
「顔の割に口が悪い」
なあ、頼むからそんな顔で俺を見下ろさないでくれ。
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