act1 俺をそんな顔で見下ろさないで

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「いってえ!」  ケツに衝撃が走った。勢いよく前方に体が投げ出される。雨降り地面の水たまりに、ばしゃりとロウファが突っ込んだ。頭上に雨がぱたぱたと落ちてくる。 「なにすんだよ!」  腰を手でさすりながら、睨みつけるような顔で振り返った。 「お前がなにやってんだよ、気持ち悪い」  ずっと想いを馳せていた人物が目の前にいる。目の前にいて、自分を見下ろしていた。  体中が一気に熱くなる。同時に放たれた言葉の意味を考えた。  気持ち悪い……? 「……はあ?」  真っ赤な顔で彼を見上げて睨みつけた。声は裏返って震えていた。 「んだよてめえ! 初対面の人間にその言葉はねえだろ!」  恥ずかしさを暴言で隠した。彼は呆れ顔で俺を見ている。 「初対面? どこが」  どこが? そう言われて心臓がどきっと跳ねる。これが恋? とかいうやつではない。警察に追い詰められた犯人のような気持ちになる。背筋が凍りついた。こんなに全身で浴びている雨の音が聞こえない。心臓がばくばくする。 「お前いっつも俺のこと見てるだろ、気持ち悪い」  うわ全部ばれてた。  辛辣な顔でそんなこと言われるなんて誰が想像した? しかもずっと憧れていた人に! 胸がずきずきした。突き刺さったカッターナイフをその状態で九十度くらいひねられたような痛みだ。いやそんなこと実際されたことないけど。血ぃ吐きそう。 「また気持ち悪いって言った……!」  声が震える。  なんだか目が痛い。目が痛いと思ったら鼻水が出てきそうになった。 「だって気持ち悪いんだもん」 「うるせえ!」  全身冬先の雨で冷たいのに、目の周りだけぶわっと熱い。熱くて痛くて、視界がゆらゆらする。前髪から雨が滴ってはらはら落ちた。 「顔の割に口が悪い」  なあ、頼むからそんな顔で俺を見下ろさないでくれ。  
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