Ⅰ)incipit

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―2075年 日本 夏 ― 「なぁ拓海。お前就職どうすんの?」 「全然考えてねーわ。つうか、俺らみたいなバカ、雇う会社なんてあるのかよ」 拓海は、特に悲観的になるでもなく、浮かれるでもなく答えた。 「ねーわな…」 彼らは現在、大学の4回生だ。 本来であれば、8月の今の時期には就職場所は決まっているはずだ。 しかし、彼らはまだ就職先が決まっていない。 むしろ、まともに就職活動をしていない…と表現した方が正しいかもしれない。 特に、拓海には、あまり働く意欲がなかった。 働かなければ生活が出来ないことは理解しているし、大学を卒業したら働くつもりではいる。 ただ、必ずしも正社員で…と言う気持ちがなかった。 のらりくらり過ごして、適当な会社を受けて、就職出来れば良い くらいの気持ちでいた。 「拓海さ、お前、ホストとかやってみたらば?」 「ホスト?」 「そうそう。お前、面構え良いし、上手くいけば何千万とか売り上げられるかもしれねーじゃん」 「…色恋とかめんどくせー。」 「だよな。 あぁ!彼女欲しい!」 「お前、それホストと全然関係ねーじゃん」 「たしかに!」 一輝は、拓海の言葉に声を上げて笑った。 華夷塚 拓海(かいづか たくみ)と道重 一輝(みちしげ かずき)は、中学時代からの友人だ。 高校こそ違ったが、たまたま同じ大学に入学した。 二人で歩いているととてもよく目立った。 簡単に二人を形容するならば… 拓海は、さわやか系のイケメン 一輝は、ワイルド系のイケメン と、言った感じだ。 身長も日本人の平均身長よりも高く、スタイルも良い。 性格もさっぱりしているし、基本的には誰とでも仲良くなれるタイプの彼等は、今のところ最強と言えば最強だ。 ただ、唯一欠点があるとすれば、遊ぶ以外のことに関しては、意欲的ではないところを挙げると、これから大人になって行く上では、非常に残念なコンビと言えよう。 「あ、そう言えばさ この間、ネットサーフィンしてたら、すげぇ怪しい広告見つけたんだよ」 一輝が何かを思い出しように声を上げる。 「怪しい広告? エロ動画とかそう言うやつか?」
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