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まだまだ人ともののけの境界線が曖昧だった頃。
月に一度、ないしは二月に一度くらいの割合で、群青色の空を闊歩するもののけの集いを見ることが出来た。そのもののけの群を人々はこう呼び忌避していた。
百鬼夜行。
百鬼夜行の夜に出歩いてはいけない。もののけに食われてしまうから。
そんな言い伝えと共に、九十九のあやかし共を従えたもののけ共の総大将・ぬらりひょんは、ほぼ人と変わらぬ姿で空を悠々と歩いていた。
それもそのはず、初代ぬらりひょんも二代目ぬらりひょんも人の姿を器とした元は別の生き物だった上、三代目ぬらりひょんは、元を質せば只人のからもののけへと見姿を変えたに過ぎなかったのだから。
もののけの仕事はただそれぞれに生きること、それだけだった。
人の命を糧とするもの、人の色欲にだけ反応するもの、人と関わらずただ草原の片隅に棲むのを好むもののけも居なくなく。
人に害するものかどうかなど、人の歩みから外れた三代目ぬらりひょんの知るところではなし。ちなみに彼の命の糧は二代目ぬらりひょんから注がれる妖力、それだけだった。
だけに余計、人間などという生き物に興味を失せていた彼だったが、ある百鬼夜行の夜に、捨てられた幼い子供と出会った。その出会いが三代目ぬらりひょんの生き方を変えることになるとは、この時、誰も思っていなかった。
のうのうとした日々の中に、たった一つの異なる存在。なぜそのような少年に惹かれてしまう心の意味にも気づかず、三代目ぬらりひょんは彼を溺愛し過ぎた。それがゆえに彼は少年を手放さなくなったと同時に、自分も昔は少年と同じ人間であったことを思い出すも、彼はそのままあやかしとして───三代目ぬらりひょんとして生きる道を選び、一度は袂を別った彼との二度目の邂逅は罠でしかなかったが、それだけに人間である彼と自分の違いを強く思い知らされたぬらりひょんたる青年は、あやかしとして生きる意味さえ見失うこととなった。
けれども基本は不死の身であるあやかしに、「死」という終焉は訪れない。ただ生きているだけのあやかしとして、それでも三代目ぬらりひょんである少年の何一つ変わらぬ日々だけが過ぎ生きた。そんなある日。
大人になった子供だった彼と、少年のままの変わらぬ見姿で彼等は三度目の逢瀬を果たした。そこで初めて解かれた組紐の糸目。紡がれた糸の先に居たのは果たして。
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