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【序章】
忌日の夜に外を見てはいけない。
百鬼夜行を目にした者は、魂を盗られてしまうから。
そんな言い伝えがまだまだ色濃く残っていた時代。
そして本当に百のあやかし共が、我が物顔で闇をつれて跋扈していた頃。
当時、真しやかに語られていた百鬼夜行の総大将は、金の瞳に碧い髪を風にふわりふわりと漂わせながら、白地に髪の色と同じ碧の葦の葉の着物を粋に着こなして、空を渡り歩いていたと言う。
その余りにも人と変わらぬ姿に、百鬼夜行と気づかずすれ違ってしまった者も少なくなかったそうだ。
尤も百鬼夜行の総大将の姿を口にした者は皆、数日の内に命を失ってしまったため、何時しか百鬼夜行そのものを語ることが忌避となっていった。
そして語られぬものは色褪せ、忘れられてゆく運命にあるもの。
百鬼夜行も人々の記憶から忘れ去られ、何時しか誰の目にも触れられなくなった。
けれども異形の物達は、消えてしまったわけではない。
むしろ人の目に触れられなくなった───「無いもの」として扱われるようになったのをいいことに、宵闇の中だけと言わず昼最中から悪さに更け込む輩が増え、その数は百などとうに越えていた。
けれども忌日の夜に群青色の空を、闊歩出来るあやかしの数は百と決められていて、それら引き連れ歩くあやかしを選別するのも総大将の仕事だった。
そしてその夜、練り歩く夜道の供を選んで空へと足を繰り出した総大将の髪は、望月色をしていて、着物は羽織った猩々緋に弁柄色の帯を横腹でゆったり大きめに結び、たなびく裾からは帯と同じ色の袴が覗いていた。
そして軽く後ろに目をやり、己についてくる九十九のあやかし達を眇め眺めつ流した瞳は、同じ赤でも柔にくすんだ銀朱色をしていた。
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