【序章】

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「夜行の途中で牛鬼達が、人の子の匂いがすると見つけ出しまして。こんな忌日の夜にわざわざ捨てられたのだケンたら、おそらくは少年の「目」のせいでしょう。あの子供の目にはどうやら我々の姿が、正しく映っているようです。最近の人間の子にしては珍しい。それゆえあの子供は鬼子ケンて忌みられたのでしょう。今宵は水無月の巳、我等あやかしが一番に力を得る日であることを知った上で追い出されたのだケンたら、まさに我等に食い殺されることを望んでのことかと」  百鬼夜行を語るだけではない、あやかしの姿が見える、それだけで今は異形の物に近い存在と見なされてしまうらしい。  それでいながら本物の異形の物への人身御供さながらに捨てられるのだ。人間とはなんと矛盾した生き物なのだろう。しかも何年、何十年、何百年経とうと、学ぶこともないらしい。  白は思わず思い出しかけた過去の、それこそ忌むべき記憶に蓋をすると、行くぞ、と新に声をかけた。  新もそれだけで元主であり、元総大将であり過去最高の力を持つと畏れられた、二代目ぬらりひょんの背中に続いた。 「おかえり、誠。と、そこの子供。こざっぱりしたせいかずいぶんと見違えるくらい綺麗になったね。おいで、子供。髪を拭いてあげよう」  湯上がりの誠と少年を迎えてくれたのは、先々代ぬらりひょんにして初代あやかしの総大将である劫だった。  誠はいつもと異なる屋敷の空気を察して、劫に尋ねた。 「ハクは?」 「さてね。おまえが勝手に子など拾ってきたせいで、機嫌が悪くなったようだから、今頃どこぞで暴れているんじゃないですか」  なるほど、言われてみれば自分の目附役である烏天狗の新の姿も見当たらない。そして二人が一緒に出たのであれば。
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