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呟けば、少し困った顔をする。ラウルはたまにこんな顔をする。心苦しそうな、それを隠す笑顔を。
「ラウル?」
「え?」
「どうか、したかえ?」
「いえ?」
誤魔化している。それを感じている。でも確認できない。何が出るか怖くて、何も言えなくなるのだ。
それでもこの日のシウスは少しだけ踏み込んだ。勇気を持って。
「のぉ、ラウル」
「はい」
「来年の初め、お前の家族に会いに行ってもよいか?」
「え?」
困った……というよりは、恐れるような表情。彼は家を大切にするのに、シウスが近づくのを拒んでいる。どうしてなのか。調べてもラウルの事に関してはクラウルも明かしてはくれない。宰相の権限でも、開示を拒まれるのだ。
何を、隠している。話せないことなのか。不安が募り、望む事はいけないのかと思ってしまう。彼が欲しいのに、近づこうとすれば遠ざかろうとする。その手を掴む寸前なのに、どうして振り払うようにしてしまうのだ。
「ラウル、私が好きか?」
「勿論です」
「……そうか」
その気持ちに嘘は感じない。なのにどうして、触れられない。
シウスの不安は日増しに強くなる。正体が見えないまま、暗闇に飲まれるようだった。
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