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覚えているだけで、五回。幻覚に取り乱し、悲鳴を上げて、悲鳴すら上げられなくなるとまた嗅がされた。薬をもらって二時間程度は驚く程に体が楽になった。けれどそれが過ぎるとまた地獄の様な時間を数日過ごした。
体力は限界で、食べ物が常に異物に見えて、口に運ぶも飲み込めず嘔吐を繰り返して、食べられたのは薬を嗅がされた直後しかなかった。
それでも喉が渇き、血の様な水を飲み込み、吐きそうなのを堪えていた。
それから一ヶ月以上をかけて、体と精神をハムレットが、薬を抜くための治療をこのオーギュストが行ってくれた。
幻覚に取り乱し、暴れる体を抱きとめて鎮めてくれたのもこの人だった。
ふと、手が髪に触れる。穏やかな緑色の瞳が、少しだけ笑っているように思えた。
「顔色が良くなったな」
「お陰様で、食べられるようになりましたし」
「幻覚は?」
「もう見ていませんよ」
「幻聴は?」
「そよ風程度です」
まだ完全ではない。それは分かっているが、気にはならない程度になった。
今はそれよりも早く体を戻して、主の為に動きたい。その気持ちが少し出てきている。
「具合が悪くて、町に行かなかったのかと思っていた」
気遣わし瞳に見られ、レーティスは俯く。カップを置いた手は、震えていた。
「どの面下げて、祝いの日に私などが行くことができるのか」
「レーティス」
大きくゴツゴツとした手が肩に触れる。気遣わしい瞳がよりその色を濃くする。
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