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見えない距離(シウス)
式当日は抜けるような秋らしい晴天だった。
各団長、重臣、従者などが着席する教会の長椅子の一つに座り、堅苦しい白い団長服を身に纏ったまま、シウスは幸せな二人の睦まじい姿を見ている。
とても美しい花嫁と、とても凜々しい主の姿。柔らかく、優しく微笑むカールがヴェールを上げ、恥ずかしげに頬を染めるデイジーを上向かせてキスをすると、会場は祝福の声に溢れた。
「クラウル、ウルウルしてる」
「してない」
隣のオスカルがニヤリと笑いクラウルを茶化し、クラウルは赤くなって反論している。だが、クラウルの目は確かに少し潤んでいる。幼馴染みの結婚式だ、感じるものがあって当然だろう。
シウスは少しだけ、心の中で溜息をつく。
幸せな人達を見る今ここに、自身の大切な人がいない事を恨めしく思ってしまっている。
ラウルとはもう、二ヶ月会っていない。彼が動き始めたのは西の異変よりも前の事だ。現在はラン・カレイユにいるだろう。
こんな事はそう珍しい事ではなかった。王都から長く離れる事の出来ないシウスはいつも帰りを待つ側で、暗府として他国にまで潜入や潜伏を行うラウルは一年の三分の一王都にいない。
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