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元テロリスト達の祭日(レーティス)
郊外の屋敷。その庭が見える場所に腰を下ろしたレーティスは、一人お茶を楽しんでいた。
外は騒がしく、屋敷の中もつい先程までは騒々しい状態になっていた。
それというのも、今日は皇帝カール四世の成婚の祝い。今頃はパレードが終わった直後だろう。
白い磁気のカップの縁を、そっと指先で撫でる。飴色の液体がその振動を拾って、僅かばかりの波紋を広げていた。
「お前は行かなくてよかったのか?」
不意に戸口で声がする。その声はもう聞き慣れたもの。少し低い男の声が、耳に心地よく響いていた。
「オーギュストさんこそ、行かなくて良いのですか?」
入ってきた彼が、困ったように小さく笑う。そして当然のように、側の椅子へと腰を下ろした。
「非番だからな」
「非番なのに、ここへ?」
「心配だったからな」
自然と伝えられた言葉に、申し訳なさがこみ上げる。彼はずっと、レーティスの治療に付き合ってくれていた。
西から戻った直後、レーティスを襲っていたのは酷い幻覚と幻聴、頭痛、食欲不振、そして吐き気だった。
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