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女───に見せかけその実あやかしであるその女型のあやかしの言葉に、額から左瞼の上までの斬り傷を隠しもせずにその男は、煙管の煙を再度燻らせると、口の端を持ち上げニヤリと笑った。
「年齢的にもぴったりだしな。まぁ間違いねぇだろうよ。さてあの男を使って今度は、どんな花火を打ち上げてやろうか───」
女型のあやかしは、そんな男の───男の姿をした同じあやかしの独り言を拾い上げ、せっかくのあたしの上顧客がこれでいなくなっちまうのか、と嘯いた。
と、聞かれていると思っていなかった女型のあやかしは突然、男のあやかしに腕を取られ体を組み敷かれた。
「よく言うぜ。忌日の夜にはここから少し離れた村の人間を食い荒らしている人喰いあやかしが。まぁでも礼に一度くらい、抱いてやるよ。俺の妖力、存分に味わえよ?」
「報酬としては悪くないね。最近は荒らしに行ける村も減ってきてるしね」
「例の百鬼夜行か───」
「そうさ。あいつ等、ここ数年というもの、やたらとあちこちの村を襲いまくってるじゃないか。ちょっとばかしあたし等みたいのより、妖力に恵まれて生まれたってだけで、随分な差だと思わないかい? そもそも百鬼夜行とは、人に畏れを与えるだけが目的じゃなかったのかい。あいつ等に見境なく暴れられたら、あたし等みたいな半端者は干上がったりだよ。怪しまれる前に河岸変えするのもそう簡単じゃないってのに。なぁ、おまえ? おまえの妖力だったら、あの連中に少しくらい制裁加えられたりしないかい? なんならあたしも協力するし───」
女のお喋りを遮って、男はきっぱりと言った。
「そんな半端な協力いらねぇよ。俺ァまさにその百鬼夜行の連中を相手取ろうと思ってあの男を探してたんだ。あの男さえこっちに引き込めれば、きっと面白いことになるぜ。だからおまえはまだこの郭に居ろ。今少しあの男をここに引き付けておく必要があるんでな。郭の他の従業員には、今少し暗示をかけておいてやる。やれるよな───?」
男のあやかしが女あやかしを、これ以上ないくらい妖しく映しとった。
女あやかしはその深緑の瞳に飲み込まれたように、ただうっとり微笑むと、もちろん───と声にならない声で答えた。
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