【09】

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【09】

 その日も白はまんじりともせず、誠の帰りをただひたすらに待っていた。  以前と比べて百鬼夜行に出ることを厭わなくなった誠だが、そのこと自体は誠にもやっと総大将の自覚が表れてのことかと一時は白もほくそえんでいたものの、ある日、青い顔をした新に、とある事実を告げられてからというもの、誠が百鬼夜行に出掛けた瞬間から、誠の帰りを待ちわびる白だった。  誠様が村を丸ごと潰しました───そんな新の報告に、耳を疑い最初は相手にしなかった白だが、誠の纏う気配の変化からその事実を認めざるを得なかった。  百鬼夜行から帰ってきた誠の妖力は底尽きかけていて、白が何も言わずとも白の唇を欲し白の体を求めた。 憂いと言うよりは淫靡に近い影を帯びた銀朱色の瞳は、問答無用に白を捉えて離さない力を持っていて。  白は新が告げてきた事実が真実だったのだと悟ることは出来たが、何故そんなことをしたのか───厳密には何故「許可した」のか───を、尋ねる機会を逃したまま何十、何百に近い百鬼の夜を見過ごしてきた白。  何故なら白は誠を追い詰めることが、怖くて出来なかったのが一番の理由だった。  誠は言った。自分は何処にも行かない、と。  人としての記憶を取り戻した誠は、本来の己の名前も思い出したはず。  その名を用いればあやかしの輪から抜け出ることも出来るのに、そんなことはしないどころか、自ら初めて白の嫁を名乗った、その意味をもっと深く考えるべきだったのかもしれない。  だがあの時の白は、誠が大事にしていた人間の子供よりも自分を選んでくれた、そのことだけでいっぱいになってしまっていたから。
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