【09】

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 誠の翔ぶ力は今でもあまり速い方ではない。だが誠はあの時───白に首を絞められ、それでも例の子供を助けに行く際に発揮した、本来あやかしにはなかった能力に目覚めて以来、どうやらそれをいつの間にか使いこなせるようにまでなっていたらしい。  たかだか夜の散歩の度に、誠の妖力が減っているのもそれならわからなくなかった。そして今や二回、三回の跳躍では妖力が底を尽かないくらいには、制御も出来ているのだろう。  誠に跳躍されたら白では誠の居場所を知ることは出来なかった。劫の力を持ってなら追えなくはないだろうが───何せ誠にあやかしとしての生命を吹き込んだのは、劫なのだから───、白は劫が妖力を使うことをあまり良く思っていなかったので、可能な限りそのような事態が起こることだけはあって欲しくないと、それだけを思って今夜も誠の帰りをひた待つ白だった。そして。 「───白」  庭先と縁側を何往復したかわからなくなった頃、思い焦がれていたその声を聞くことが出来た。  顔を上げた勢いのまま、空から降りて来ようとしていた誠の体を引き寄せ抱き止める。  誠はおとなしくそんな白の腕を受け入れ、あまつさえ自ら白の両頬を挟み込むと、白の唇に己の唇を降らせてきた。 「ただいま、白」 「───お帰り、誠」  人として一度は寿命を終わりにした誠の体は、あの時から歳を取っていない。けれどもこの微笑だけは、あの頃の数倍は美しく育ったとしか思えなかった。  誠の未知数な力を前にしながら、それでも白にはこの腕の中に、誠を閉じ込めておくことしか思いつかなかった。閉じ込めてさえおければ誰にも取られることはない、そう信じて。
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