【10】

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【10】

誠が眠る白の部屋に新が姿を見せたのは、陽射しが暮れかけ夕闇が始まろうとしていた頃だった。  そして新は言った。昨夜の百鬼夜行は何事もなく、夜を横切っただけでした、と。  それは誠と魂の交歓を行いながら、薄らわかっていたことだったが、百鬼夜行に今も誠の右腕として同行させている新の言葉を聞いて、初めて本心から安堵する自分というのも情けない限りだった。  自分は誠をどうしたいのだろう。これだけ側に置いておきながら、信じているのは上部だけ。ここまでくると自分が誠の何を怖れているのかもわからくなりそうだった。  けれどもこんな弱音を劫に吐こうものなら、自分が信じられない者を側に置いておく必要があるのですか、と、極論に満ちた真実を突きつけられるだけだろう。  実際、劫は己が認め己が欲したものしか、身近に置かなかった。それはそれは昔から。自分達の最初の頃から。  そんな劫だが白の願いだからと、聞き入れてくれた誠のことは、それでも気に入り気にかけてくれている方だった。  でなければ誠が納得しないでしょうというだけの理由で、白がただ人間の世界に放り出そうとしたあの時の子供を、わざわざ子供を欲しがっている人間を見つけてきて、子供の記憶を消し去ってから授けるなど、そんな手間をかけてまでして引き渡してやったりしなかったはずだ。  とはいえ結局のところそれ以上でもなければそれ以下でもない、劫にとって誠の存在はその程度のものだった。  なので誠がこのまま人を滅ぼす道を迷いなく選ぶ狂気の三代目総大将になったとしても、劫はきっとそうですかと、いつもの微笑みを崩すことなく言うだけに違いない。己が確立させたあやかしの世界の秩序ですら、白に譲って己の手を離れた途端、劫にとっては無関係なものでしかないのだから。
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