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 そんな劫なのでまさかもう一度、誠の人としての記憶を消して欲しいとも言えず、かと言って誠に本当はどうしたいのかを面と向かって問い質せる勇気もなく、ただ毎日が何事もなく過ぎてくれることを願うばかりで、新の心配も最近では同情に変わりつつあるのではと思わずにいられなかった。  その新が、ふと、と言った感じで語り始めた。 「昨夜の百鬼夜行、途中で人型のあやかしとすれ違いました。殆ど人に化け人に紛れて生きているような感じでしたが、ただそれにしては並々ならぬ妖力を持っているようでもありました。妖力……というのが違うのであれば、とにかく普通ではない力を宿していたことは確かです。そして彼は確実に自分達一行を見送っていたので、万に一つ、あの人物が人間だったとしても、我々を見る目を持っていることは確かです。探りますか?」  新の報告に白は肩を揺らすと、考えたくない予感に取りつかれざるを得なかった。  人の時の流れで換算すると、あの人間の子供を再び人間の世界に返してやってから、ちょうど十年。  まさか新の言う「男」と言うのは、あの時の子供が大人になった姿なのでは───。  そんな風に白が思ってしまったのは無理ないことだろう。たが、新の口から語られた男の容姿に、別の意味で白は絶句するしかなかった。 「外見的年齢なら白様と変わらない感じでした。ただ額の左から目の縁にかけて大きな傷を負っていた容姿は、何処か演出めいたものを受けましたがね。纏っていた深緑色の着物に黄色い蝶をあしらった着物は、浄土の世界を彷彿とさせるためであったなら、かなりの皮肉屋に違いありません。人だったにせよ、あやかしだったにせよ」  思い出せる範囲で語った新の言葉に、白は襖越しでなかったらどれほどか新に心配されただろうか。  新の言葉を聞きながら思い描いた人物は、己の記憶にある人物と寸分違わぬ姿で合致せざるを得なかったのだから。
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