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(生きて、たのか───)  すぐにはそれしか思うことが出来なかった。なにせずいぶんと長い間、誰も彼の存在を見かけもしなければ、その存在を聞き及ぶことすらなく、気がつけば誰の口からもその名が出ることがなくなって久しかったくらいだったから。  白はすぐにこの事実を劫にも報告すべきかどうか考えるも、この段階でその人物の存在を信じたくない気持ちの方が強かった白は、深い沈黙に身を沈めるしかなかった。 「───白様?」  報告を終えたつもりで口を綴じた自分に、何一つ言葉をかけてくる気配すらない白の反応に、訝しさを思いつつ新が白に呼び掛けた。  その声に我を取り戻した白は、ひとまずその男には関わらぬようにとだけを伝え、新に暇を告げた。  新の気配が襖越しから完全に消えたのをもって、白は無意識に立てた膝、その膝に乗せた肘を軸にくしゃりと碧色の髪をかき混ぜていた。 (生きていたのか、星熊───)  いや、今名は───劫のつけたあやかしの名を捨てていなければ、ヤツの呼称は「連」だ。  群れることを嫌っていたヤツに付ける名としては、劫も物好きなとしか思えなかったが。  あやかしとして生きている以上、呼称その物は消し得ない物だが、自分が誰に何と名乗ろうが、それはあやかしとて本人の自由だ。  ただし、本名を知られその名で呼ばれた時だけは、嘘はつけないのがあやかしなので、正直に返事をしなければならなかったが。  たが白が彼について持っている情報の中で、彼の名に該当しそうなのはその二つだけだった。  星熊、もしくは連。  何はともあれアイツが生きていたとなると、ただでは済むまい。しかもこっちに───百鬼夜行を通じて、己の存在を知らしめてきた以上、何かあると思った方がいい。  決して良くない何か───が。
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