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【11】
背中越しに声を聞いていた。
自分が寝ている間に新が、白に昨夜の百鬼夜行の報告にきたのだろう。
自分のここ数年来の百鬼夜行の遣り方に、白が心配をくれているのには気づいていた。
けどなぜだろう、それまで百鬼夜行などただの義務だとしか思っていなかったのに、自分が人でなくなり、あやかしになった記憶を朧気ながら取り戻してからこっち、百鬼夜行の日どころか普段の夜ですら、人里など見るのも嫌になっていたくらいだったのに、その日が忌日の夜だと知らなかったのか、はたまた忘れて出歩いてしまっていたのか、一匹のあやかしの目に留まった人間がきっかけだった。
その人間はよほどの怖いもの知らずだったのか、飲み過ぎた酒のせいで判断がつかなかったのか、誠の前に引き連られてきた時、目を輝かせると言ったのだった。
アンタがヤらせてくれたその後なら、殺されても食べられても構わない、と。
その瞬間に誠毛立った感情、感覚を、どう表現したらいいのかわからない。
わからなかったが一瞬にして、誠の中に流れた名もつけられようない激情が、知らない内にあやかし達に伝播していたのだろう。
その人間は気がつけば、肉片一つ残さずその時、誠の周囲にいたあやかしの何匹かに食い飲まれていた。あっという間の出来事過ぎて、誠の隣にいた新ですら止める暇もなった。
人の血肉の臭いが拡がった時から、百鬼夜行に追従していた九十九のあやかし共は、途端に落ち着きを失い始めた。
比較的長くあやかしをやっていて、そのお陰で妖力も弱くなく、だがそれ以上にあやかしとしての自制心のあるなしで百鬼夜行に加われるかどうかが鍵の彼等をしても、そこに生の血肉の臭いを感じてしまえば、人の血肉を主な餌にしている類いのあやかし達の自制が焼き切れるのを、留めておくのはいかに総大将とて厳しかった。特に白のように絶対妖力で、列を引き連れているのでもなければ。
ゆえに誠は狩りの許可をくれた。好きにしろ、とただそのひとことをくれ、自身は群青色の空へと上がっていった。
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