【11】

2/6
前へ
/40ページ
次へ
 誠自身は人の血肉から妖力が得られるわけでもなし、否、それ以上にただどうでも良かった。不意に心の奥底に空いた穴、そこに居たのは。  そんな記憶を振り払い、誠は緋色の着物と弁柄色の帯のみならず、銀朱色の瞳すらどこか虚ろなものとして、群青色の空へ沈めると、村の一つがあやかし共の手によって摘み取られていく様を黙って見下ろしていた。  阿鼻叫喚と言うに相応しい女子供の泣き叫ぶ声にも、非力は承知であやかし共を追い払おうと無駄に頑張る男共の姿も、耳は拾い目は見ていたが、何も感じはしなかった。  感じようがなかった。むしろ何を感じれば良かったと言うのか。人ではない自分が。自分を人でなくしてくれた、同じ「人間」を前にして。  そんな誠の顔を横に並び立ち盗み見ていた新には、何も言えなかった。  あやかし共が取りつかれている衝動の根底に、誠の感情が流れていることがわかるからこそ、誠に代わってあやかし共の凶行を止めることも、誠の心に安易に手を差しのべる、どちらも出来ずに誠と一緒になって村の一つが消えて行く様と、感情と共にあやかし共へと流れ出て行く誠の妖力の減少に気を配り、機をみてただ誠を白の元へと帰すことしか考えていなかった。  それから何十、何百の百鬼夜行を遣り過ごしたものか。  さすがに最近は人間社会の慣習というか世情が変わりつつあるのか、誠が目の敵にしている二ヶ条、間引きの風習が残る村、夜這いの慣習が容認されている村もなくなりつつあるらしく、年に二回も虐殺の夜はなくなったとは言え、それでも白が心配をくれる気持ちは新には手に取るようにわかった。  人間は平気で同じ人間を裏切るくせに、人間以外の異形のものに対してはもっと手酷いことを辞さない生き物だ。誠の率いる百鬼夜行が、どこかで待ち伏せでもされていたら。  白の心配はそこに尽きた。かと言って、誠の百鬼夜行に都度、自分も参加すると言い出せない白は、ただひたすらに誠の帰りを待つしか出来ないのだった。  もっとも彼は彼に出来ることならいくらでもしていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加