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 次の忌日まではまだ半月以上もあり、果たして次は何処の村を横切ろうかと考えながらその夜、散歩を楽しんでいた誠を、呼び止める視線があった。振り向くまでもなく「あの男」だとわかった。  ゆえに誠は白の言葉もあり、最初は無視するべきかと思ったが、ようよう焦点をその男だけに絞ってみたところ、どうにも無視できない雰囲気があった。  そこで感じたのは、白や劫にはないあからさまな色香。振り向けば確かに一見したら人間にしか見えなかった。  人に紛れて生きているあやかし。そんな存在は今まで誠のあやかし人生の中には居なかったから。  誠は足を止めてしまっていた。ただし、地面には降りない。それが誠の最低限の意思表現だった。だが。  男はそんな誠を深緑の瞳で誘った。降りてこいよ、と何でもないようなことのように言った。そして続けた。 「もうすぐこの道をある男が通る。その男に見つかりたくなければ、降りてその身を木立に隠せ。なぁに、俺だってこう見えてあやかしの端くれだ。総大将殿をどうこうしようだなんて思わねぇよ」  男の言葉に嘘はないように思えた。事実、あやかしは嘘だけはつけない。  けれどもいつぞやのはぐれあやかしのように、ぶっ飛んだ思想を持っていないとも限らない。  そんな怪しさも持ち合わせた男は多分、危険以外になかったはずだ。  だが誠は男の言葉にだけではない、ふと男が纏っている色香以外の雰囲気に、白や劫と似通っている「何か」を感じ、どちらかと言えばそちらに興味を覚えてしまった。  誠が男の背後にあえて降り立つ。男はそれを口の端だけで笑って受け止めると、木立に背を預け誠と向き合いながらも、ある方向から完全には目線を外していなかった。  誠もその目線に倣って、木立に挟まれた道の奥へと目をやった。すると。  月明かりの元でもわかる、濃紺の着流しに身を包んだ長身の男が一人、歩いて来た。この男が額から瞼までの傷を持った男の言う「これから通るある男」のことだろうか。  けどなぜ深緑の瞳の男が自分を誘ったのか、その真意など尋ねるまでもなかった。
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