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取り上げられた。そのひとことに、自身でも想像したことなかったくらいの動揺を覚えた誠だった。
そうなのだろうか。自分は白や劫に、ケンを理不尽に取り上げられたのだろうか?
確かに劫は一度はケンを自分にくれると言った。白を説得してくれると約束をくれ、その通りにしてくれた。
けどそれは自分が「きちんと」ケンの面倒をみられたら、が前提だったはず。
ケンが一人で劫の結界を抜け出て、行方がわからなくなり、それがきっかけで白と劫に迷惑をかけた。
だから劫としたあの約束は、反故になって当たり前だと思っていたし、何よりあれをきっかけに白が、自分と姉にしてくれたことを思えば、今度は自分が白に尽くす番だと思ったからそうしてきたのに。
もしかして自分にはケンを手離さないで済む方法があったのだろうか? それとも───それとも。
「……は」
「何だ?」
「ケンは俺のこと、忘れてる───?」
誠の問いかけに深緑眼の男は、包帯の下で笑い誠に答えてやった。
「忘れてるだろうな。おまえに拾われ、命救われたことも、おまえがどれほどにあいつを愛し可愛がってやったかも全て。けどな、誠。俺ならおまえにあいつを───あの頃のあいつごとを取り戻してやれるとしたら、どうする?」
取り戻せる。あの頃のケンごと。
育ってしまった体は元には戻らないだろうけど、あの頃のように無邪気に自分に懐いてくれたケンをもう一度、この手に抱けるというのなら。
背後に立ち、己の体を柔に抱き締めている腕の持ち主の顔を、初めて真っ直ぐ見やるべく振り返った誠の銀朱色の瞳に、男は相対する深緑色の瞳で、どんな美しい宝石も敵わない妖しさで、誠の心を掌握した。
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