【07】

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【07】

 過去を見ていた。最愛の人を亡くしたその瞬間を。  髪の色はすっかりと白色に変わり、口から胸元を真っ赤な血で染まった彼女の姿を、恐ろしいと思うようなことは当然なく、むしろ一体彼女の身に何があったらこうなるのか、彼は茫然自失しながらも、彼女の体をただ抱き寄せていた。すると。  家の外で何か爆ぜる音がした。いや違う。家が燃えているのだ。  外から火を放たれたのだろう。自分と姉とを手っ取り早く処分するには、それが一番に決まっていたから。  自分達が何をしたと言うのだ。早くに両親を亡くし、拠るべき親類縁者もなく、ただ姉と二人慎ましく生きてきた。そんな自分達を村人とて、相互扶助の気持ちで迎え入れてくれていたことも確かだったのに。  彼の姉は美しい女性だった。欠点のない外見以上に、自身の生活苦も感じさせず、誰にでも平等に惜しみない微笑みを振りまける、そんな柳腰な雰囲気がこの惨劇のきっかけといえばきっかけだったかもしれない。  夜中の物音で目が覚めた。なんだろうと音のした土間に向かった先、三人の男衆にのし掛かられていた姉の姿を見つけてしまった。  当然彼は姉を助けるべく、三人の男衆に掴みかかったが、敵わなかったどころかどうしてそんなことになったのか、気がつけば彼は二人の男衆に組み敷かれていた。そんじょそこらの女よりよっぽど上玉だ、とか言われて。だが。  その時、一陣の風が吹いた。家の中だというのに、だ。  三人の男衆は問答無用に、土間の壁へと追いやられ激突を食らっていた。そして自由になった身を起こした彼が見たのは、背の高い一人の男だった。  姉の前に守り立ったその男は、碧い髪を晒し、裾に葦の葉をあしらった着物を粋に着流し、ただそこに居るだけで圧倒的な存在感を放っていた。だがその時。 突然、姉が咳き込んだかと思ったら、そのまま一気に血を吐き出した。  姉の手をこぼれ、畳に染み込むに止まらず、土間にまで流れ出さんばかりのその赤の勢いと、量に恐れをなしてか三人の不埒な男衆は、我先にと逃げ出して行った。
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