【07】

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 こいつからおまえを奪ったら、今度はこいつと契約を結ばされそうだ。畏れを知らぬ強い瞳で、百鬼夜行の列に飛び込んできて、な。  顔を赤らめて過去の自分の仕出かしたことに恥じらいを覚えつつも、それでは貴方との約束を守ることが出来なくなってしまう、私の体はもう長くないのでしょう? 今だって貴方が私に妖力を注ぎ込んでくれているから、私は辛うじて生きていられているのに。  その通りだった。けれどもそこに気づかれているとは思わなかった。  驚いた白に房恵は淡く微笑むと、だって私は貴方の嫁ですから、と何でもないことのように言った。  その顔に白は心底負けたと思ったらしい。なので証文代わりの口約束とは無関係に、誠と房恵の二人をこのままこの先も守ってやると、新たな約束をくれた。が。  それから二年後。いつだって本当に残酷なのは、人間のすることの方だった。  房恵が襲われた夜、白はその異変に気づけなかった。人間の仕業は白の縄張りの範疇外だったからだ。  代わりに誠が姉の窮地に立ち会ってしまった。さらにはどこまでも不埒な三人の男衆は、誠にまで手をかけようとした、その瞬間。  最愛の弟を守りたいが一心で、房恵は命の全てを使って白を呼び出していた。その一瞬の内に白の妖力をその身に貯め続けていた房恵の髪は白色に変わり、それまで押さえ込まれていた病が文字通り吹き出し、房恵の命を奪った。  何もわからぬまま、けれども姉の体だけは何があっても離さない、そんな覚悟のもと誠が白に連れられて最初に来たのがこの場所だった。  白は姉の体に土をかけたりしなかった。とうに終わった桜の花の命を呼び戻し、その花弁で房恵の全身を覆うように囲んだ。  薄い桃色に包まれた姉の顔は、先まで血の気の一切を無くしていたとは思えないくらい、淡く色づき微笑んですらいるように見えたから。
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