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誠は願った。自分をこのまま、この記憶の中で眠らせて欲しい、と。そうしてくれるならこの体、あんたの好きにしてもいい、と。
姉が姉なら弟も弟だった。揃って同じことを言いやがる。
けれども元より病に侵されていたとは言え、誠にとって姉の死は病のせいではなく、あの出来事の方であって、しかもその後の村人達の仕打ちに、誠の心はとっくに生きる力を失っていたことも確かだった。
それでもそんな誠の言葉を受けて、誠の人としての生を奪ったあげく、劫に頼んであやかしとして生き返らせるにとどまらず、自分の嫁にしてしまった。
そこに白自身の欲がなかったとは言わない。房恵の代わりに嫁に据えたわけでもない。ただ自分が誠を手離し難くなっていた、それだけのことだった。
房恵と共に、房恵の目を通して、この少年の成長を見詰めてきたのだ。この少年のことなら房恵亡き今、自分が一番によくわかっている。
彼自身でも気づかないような彼の本心ですら、自分には手に取るようにわかると言っても過言ではないくらいに。
それだけだった。それが全てだった。誠を自分の嫁にしたのも。そもそも誠をあやかしにすると決めたのも。全ては自分のためだった。だから。
誠は誰にも渡さない。たとえ誠が己の本当の名を思い出し、あやかしの輪から抜け出ようとしても、自分はそれをおとなしく見送れはしないだろう。いくら劫に説得されても、それだけは受け入れられない自分がいた。
この手を離すことを良しとしない自分の想いの全てをわかってくれとは言わない。でも。
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