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選ばないで欲しい。あっちの存在を。
なぜ誠があんなちっぽけな人間に拘るのか、白にはさっぱり理解出来なかったが、劫が言うにはそれは誠も元をただせば人間だからでしょう、そうなるらしい。
だが白に言わせれば、それこそ納得いかないひとことだった。
それではまるで人とあやかしは、一緒になれない、そう言われたも同じではないか。自分はこんなにも誠のことを、人としてもあやかしとしても越えて愛しているというのに。
白の手が誠の左手にそっと重ねられてきた。それは白の無意識がした行為。なんとなく誠にはそれがわかってしまった、だから。
何でもない風を装って、誠は白に問うた。
「ケンはどうなりやした?」
誠の言葉に白の全身が硬直するのがわかった。けれどもあやかしは人と違って、嘘だけはつけない生き物だったから。
白は極力色のない声で言った。
「劫が見つけてきた子供を欲しがっていた夫婦の元へ引き渡してきた。もちろん、この世界で生きた日々の記憶は消し去って、な。だからな、誠。ある意味、おまえのケンはもうこの世の何処にも居ねぇ。何処にも居ねぇんだよ、誠。だから───」
「でも」
誠はわざと白の言葉を遮り、動かせる右の掌で白の頬を包み込むと言った。
「あの時、ケンが頑張ってコウの元へ辿り着いてくれたから、アンタは俺を助けられた。俺は再びアンタに助けられた。いや、三度目か。アンタは俺と姉上の人生を作ってくれた、俺と姉上の恩人ですからね」
だから俺は何処へも行きやせんよ。アンタが俺を欲してくれる限り。だって俺はアンタの嫁なんでしょう───?
誠の言葉に今度は白が涙を浮かべる番だった。けれども元総大将の意地で、そんなもんは早々に引っ込めた。
代わりに誠の唇を求め近寄せた顔に、誠は困ったように笑うも、白の頬を包む手もそのままに、白を受け入れようとそっと優しく瞼を落ケンた。
その眦に滲んだものには、気づかない振りを貫き通して。
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