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慣れない駅で反対側に行くとなるとどこの通路を使えばいいのか分からなかった。
だが、なんとか北口に着いた時には、8時少し前になっていた。
そこに小野が待っていた。
「本当に来てくれるとは思ってなかった」
近寄って抱きつくと、小野は耳元でそう言った。
電車の中でこのまま九州に付いて行ってしまおうかと思った。でも、それは出来ないって分かってた。
まだカナイには前の男の借金が残ってる、このままでは小野にその借金を一緒に背負わせることになる。それはやってはいけないことだと本能が言う。
だから、私がやることは決まっていた。
「今までありがとうございました」
そう言って、口づけをした。
小野から体を離すと、カナイは笑顔を見せた。
「お元気で」
「うん、ありがとう。元気でね」
これでいい、笑顔の私だけ覚えてて。
小野は時間だからと、改札を抜けホームに向かった。
何度かこちらを振り返ったけど、そのままホームに向かうエスカレーターに消えて行った。
小野の姿が消えてからカナイは涙を流した。
「もう、ほんとなんで肝心な時に涙出ないんだから」
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