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(え、ちょっまって)
佐々木は歌の順番が回ってきて、カナイが無防備になるのを待っていて、触り始めたのだ。
カナイがそっと手をつかんで離すと、今度は反対の手で触ってくる。
(え、やだもう!)
ここで悲鳴を上げる訳にはいかない、何せマイクを持っているからものすごい音量になるだろう。さすがにキャバクラのことを知らないカナイでも、それが空気を読まない行動だというぐらいわかった。
佐々木は歌が終わるまで交互に触ろうとしてくる。ウェイターは気が付かないのか、見てないふりなのか何も言ってこない。必死で抵抗しながら歌っていると、大胆にも胸の方にまで手を伸ばしてきた。
(そりゃおさわりないとは言ってたけど、見ても注意するとは一言も言ってなかったけどさ!ウェイター気が付かなさすぎだろう!)
いささか歌声に、怒気が混じったようになりながら歌い終えた。
「もう、だめですよ触っちゃ。最初に言ったじゃないですか」
「なんだ知らね~の?ここおさわりOKなんだよ?」
(はぁ?何言ってんだこいつ)
尾崎が面接の時におさわりなしと言っていたのを覚えてる。しかもさっきまでこの男は店の存在知らなかったんじゃないっけ?
もう両手で佐々木の手首をつかんで、力比べのような状態になっていた。
(こんのぉ!)
カナイは細身だったが、筋力には自信があった。製本所では新入社員の男と腕相撲して負けることはほぼなかったし、素手でりんごを割るだけの握力もあった。
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