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ウェイターにカクテルを注文して話に戻る。
「お名前はなんとおっしゃるんですか?」
いつも通りのフリーでの会話が始まる。このあと仕事、趣味と続くはずだった。
「名乗るのはやめておくよ、名無しの権兵衛さんってことにしておいて」
これは私のこと好みじゃなかったかなとカナイは思った。だったら適当に合わせちゃえ。どうせ指名ももらえないのだし、気分を損ねない程度にしておこう。
カナイが微笑みながらそんなこと考えてるとは思っていない客は、メニューを取った。
「こんな時間まで仕事してるとおなかが空くでしょう?食べ物も注文しなさい。ほら、このフルーツの盛り合わせなんか女の人は好きなんじゃないかな」
手渡されメニューを見るが、フルーツの盛り合わせは料理関係の中で一番高い。普通の料理でも1つ2000円するのに、フルーツの盛り合わせは10000円なのだ。
「え?いいんですか?」
(何が狙いだろう?)
不思議に思っていると、初老の客は破顔して言った。
「いいのいいの注文して」
それじゃ遠慮なく。と、ウェイターを呼んで注文をした。
でも、どうせ出来上がって持ってきてもらう頃には、カナイは席を外れているだろうと思った。前に見たことがあるが、フルーツの盛り合わせは結構凝った作りになっていたはずだからだ。
「笑顔がかわいいね」
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