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見かねて尾崎が説明する。
「あ、そうなの。じゃあ、指名で。そうすればずっと居てくれるんでしょう?」
「ええ、そうですよ。では指名でよろしいですね」
尾崎が携帯で小声で「カナイさん指名入りました」と続けた。
ずっと取れなかった指名があっさりと獲得してしまった。
奇妙なのはこの初老の男性が何を考えているかだ。特におさわりしてくるわけでもなし、要求してくるのは笑顔だけ。
(ま、笑顔0円って言うからね。笑顔の大安売りしとこうかな)
また向き合うとまたきゃっきゃうふふが始まった。
いつまでこれを続ければいいのかなぁ?酔っぱらっているうちはまだ苦にならなかったが、酔いが醒めてくるとそれもきつくなった。
(もっと飲めば気にならなくなるのかな)
「すみません、お酒注文していいですか?」
「いいよいいよ、どんどん注文して」
相変わらず、にこにこした顔で初老の男は言った。
(本当に何を考えているんだろう)
その笑顔が豹変しないことを祈っていよう。
次のカクテルはカシスオレンジにした。ウェイターに頼んで持ってくる間もきゃっきゃうふふなのである。
(初恋の人に似てるとかそんなのかな)
とぼんやりと思った。
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