4/5
前へ
/115ページ
次へ
 尾崎は少し目を見張るような顔つきになったが少し微笑むと、店が入っているビルの玄関口まで送ってくれた。 (水商売ってマニュアルなんかあるんだ)  帰り道駅のホームでパラパラと、渡された数枚綴りのマニュアルに目を通していた。  少し意外だったがないよりはマシだ。なにぶんコミュニケーションが乏しい性格なのでありがたかった。  もっと意外だったのは、自分がどうやら面接に合格したらしいということだ。真智は子供のころから自分の容姿に自信がなかった。子供のころから男子からも女子からも「ブス、ブス」とからかわれ、少しでも良く見せようと鏡とにらめっこしていると今度は母親からからかわれたのだ。何度もニヤニヤしながらから「鏡なんかみてぇ」といやらしく何度となくからかってくるので、ついに真智は鏡を見ることをまるで浅ましい行為をしていることだと思うようになり、映ることを極度に恐れるようになった。  そうなると自然と髪はボサボサのままだし、服装が乱れていても気が付かない。不登校の原因のひとつはこうしたことから生まれたいじめもあった。  大人になってコンパクトぐらいの大きさの鏡は見れるようになったが、姿見のような大きな鏡はやっぱり怖く、チラっと横目で見るのが精一杯だった。  もっと怖かったのは男の人だったが、自分から好意を抱いた人には違うという都合のいい男性恐怖症だった。男の人を目の前にするとまともに話ができないのである。会社で働いてる時は仕事に集中していればよかったし、初めて付き合った人も向こうから声をかけてきてくれて、最初は感じがよかった。ただ、真智は他の女の子のように、何かわがままを言ったり自分の意見を言うようなことがなかった為か、そのうちぞんざいに扱われるようになった。付き合って数か月後には「召使い」と呼ばれていた。  そんな風に言われても真智はうれしかった。必要とされている思っていた。だから学業もしなければいけない大変な状態だったのに、相手の部屋の掃除までし、呼び出しにはいつも応じていた。彼の態度には真智へ学業の配慮なんてどこにもなかった。何か相談する度に「俺関係ないもん」が彼の答えだった。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加