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【13】
『鬼神に横道なきものを』
そう言い残し大江山で源頼光の率いる藤原保昌および頼光四天王に酒呑童子は討たれた。と、それは表舞台の歴史。実際には。
少し違った。討たれたはずの酒呑童子は、その鬼の身を棄て源頼光に乗り移った。同様に茨木童子は藤原保昌に、熊童子は渡辺綱に、虎熊童子は坂田公時に、星熊童子は碓井貞光に、そして金熊童子は卜部季武にと、それぞれがそれぞれの右腕は右腕に、四天王は四天王に憑りつき、彼等は「鬼」の器を棄て「人」の形を手に入れ、「あやかし」へとその存在を移し変えた。
それが自分達を討った人間に対する報復であり、その後は彼等は手に入れた人そのものの姿をもって、あやかし達を統率し、その頂点に君臨して四百年ほど経った頃だろうか。
そんな彼等に亀裂をもたらしたのは、「人」の器を手に入れた際に酒呑童子が面白がって全員の名をつけ替え、今は「連」となった星熊童子だった。
「つまんねぇな」
「……何がだ」
半分独り言のつもりで口にしたに違いないとわかりつつも、律儀に応じずにいられないのが熊童子改め「慧」だった。連は半分独り言のまま、慧に語ってきかせた。
「相も変わらず人間共は、俺達異形の物達を追いやることしか考えてねぇ。その一方で最近では、人間同士で殺し遭いばかりだ。奴等は何がしたいんだ? 俺達あやかしの方がよっぽど害がないと思うがな」
連の言葉に慧は手にしていた本───それこそ人の世界から手に入れた物だ───を閉じると、何故だと思う、と逆に連に問うた。
連が「あぁ?」と煩わしそうに眉根を寄せると、慧を睨みやった。もっとも慧は連のそんな仕種に怯えも戸惑うこともせず、さらりと流れるように言葉を口にした。
「人の命は俺達異形の物とは異なり、限りがあるからだ。我等あやかしは妖力の補給さえ怠らなければ、終わることはまずあり得ない。まぁ稀に「見る目」を持つ者に消される物はいるようだがな。それとて俺達六人衆には無縁のことだろう。あのそこつ者な虎熊───『境』とて、あれだけ人里に紛れた暮らしを続けているが、危ない目に遭ったことはないと言うしな。まぁあの天然のことだから、何が危険なことかわかってないだけかもしれないが」
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