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見ない顔だけれど、この村には最近来たのかい?
気を付けた方がいい、悪いことは言わない。早くこの村から出ていくんだ。
お伽話のようだけれど、ここには人を襲うオオカミが住んでいるんだよ。
1人こんな時間にお使いに来ただろう少女に向かって老婆心たっぷりで告げてきた言葉は単なる老婆心だけではなく、その証拠に薄暗いガス灯の下に照らされた路地裏の壁には、『MISSING』の文字とともに行方が分からなくなってしまった者の人物像らしき言葉が躍る。
時間という概念からしたら夜がたっぷり更けるにはまだ少し早いが、外の暗さと頼りない明りではもう真夜中と言った方が十分な位、辺りはしんと静まり返っている。
こんな時間に人気のない路地裏を歩くなんて人がいたら、浮浪者かそれとも明るい陽の下では歩けない者か、それとも物の怪か。
いずれにしても逆に何かとすれ違うことがあればいろんな意味で物騒だと思ってもいい位で、そんな中規則的に聞こえる音は何かの足音1つ。
しかし少女の足取りは決して軽やかではない、けれど急いでいるようにも怯えているようでもない。ふらついているような感じでない場にそぐわぬ足音は、大人にしてはいささか小さくて、時折ぼんやりと光るガス灯の下を通り過ぎていく。
「こんなところに君みたいな小さい子が1人なんて危ないよ」
不意に聞こえてきた声は男の声であったが姿は見えず、小さい子と言われた足音が声に気づいて規則的な足音を止める。
「ストリートチルドレンにしては身なりがいいけれど、こんな時間にお使いかい?」
― なんてひどい親なんだろうね。 ―
かけられる言葉は優し気に響くが、ねめつけるような口調は単に優しさだけを含んだものではないようにも響き、合わせるようにどこかの木々がざわりと揺れる。
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