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「よかったら途中まで一緒にいてあげようか」
頼りない明りしかない中、相手は暗闇に溶けてしまっている少女の事がよく見えているのか、迷いのない足取りで未だ声を発しない相手との距離を確実に詰めていく。
「それとも外から来たのかな?」
対して少女の方は恐怖を感じてしまっているのか、先程から淀みなく続けられる声とは対照的に、声はおろか足音すら発する気配はない。
― お父さんやお母さんは教えてくれなかったのかい?夜は本当に危ないんだよ。 ―
そうこうしている内に2人の距離はみるみる縮まり、ガス灯が鈍い音を発しながら光った明りに2人の影が映し出された。
「この村がなんて言われているか知っているかい?」
都市と都市を結ぶ街道の間からは少し離れたところにぽつんと存在する小さな村、旅人が旅の途中に立ち寄っては足を休め、その旅人をもてなすために交易が行われている近隣の村と比べ、農業を主としているこの村は、どこか閉鎖的で、どこな陰鬱な影が付きまとっている。
「なんの特徴もないように外の人間は思っているけれどね、この村は特別なんだよ」
影は2つ、1つは何らかの外套を着ているような小さなもの、そしてもう1つは少し前までは少し背の高い大人の姿をしていたが、ガス灯が弱まるのに反比例するように上背が不自然に伸びていき、同時に手足らしき頼りない黒い影がみるみる膨れ上がっていく。
「知っているかい?『タブラの村に住み着く、狼』の話を」
― だから子供も大人も危ないよ。人狼に食べられてしまうよ ―
再度木々が大きくざわめき、ざわめきと同時に何かの獣のような咆哮がその音にかき消されてく。
騒がしかった木々が鳴りやんだ後、再度聞こえてきたのはガス灯の燃える音ともう1つ。
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