第1章

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 カッスルロッシュがそう言っているように思えた。 「あなたが言うなら確かね。あなたたちは嘘をついたりしないもの……マルセルを疑ってごめんね」  そう言いながら、エリザベートはカッスルロッシュをなでた。 「マルセルはいい人ね。さっき会ったばかりの私にも分かるわ。カッスルロッシュは、私よりも、もっともっとマルセルのことを知っているのね」  こちらを見つめるカッスルロッシュの瞳は澄んでいて、なにもかも見透かしそうだ。よしよしとエリザベートはカッスルロッシュの首をなでた。自分よりもうんと大きな生き物なのに、カッスルロッシュのことをとても愛らしく感じた。 「お待たせ」  マルセルが大きなハチミツケーキを抱えて戻ってきた。こんなに食べきれるだろうか。でも食べきってみせよう。エリザベートは内心でそう決心した。  マルセルがハチミツケーキをもいで差し出した。カッスルロッシュはふんふんと匂いをかぎ、それから舌で巻き取るようにして口に運んだ。もっしゃもっしゃとおいしそうに食べている。 「え、カッスルロッシュ……?」  エリザベートは面食らった。 「ん? ドラゴンはハチミツケーキが好きなんだよ」  悪気のない笑顔でマルセルに言われて、エリザベートは黙ってしまった。 「これを食べたら、少しひなたぼっこしよう」 「ひなたぼっこ?」  エリザベートは聞いた。 「ドラゴンは変温動物だから、日に当たらないとダメなんだ。他の配達員に頼んでくるから、向こうに見える俺の下宿の前で待ってて」  二 下宿屋  エリザベートはマルセルの下宿の前で待っていた。  下宿は配送屋の隣にあった。「下宿屋」と書かれた看板がかかっている。待ちながら、入口の石段に腰を掛け、エリザベートはなんとなくマルセルのことを思い出してみた。  髪の色は赤毛で金髪、ストロベリーブロンドという珍しい色だ。  目の色は一見グレーに見えるが、よく見ると灰色がかった青、ダークブルーの瞳をしている。  背はやや高く、顔立ちは無駄に整ってる。  なによりも、マルセルはいい人だ。カッスルロッシュもなついている。こんなときでなければ、いい友達になれただろう。話も合う。 「お待たせ」  マルセルが走ってきた。  エリザベートはなんとなく下宿屋の看板を眺めていた。牧歌的で可愛い看板で、目を引いたのだ。 「ああ、この看板は配送屋の親方の奥さんが作ったんだよ」
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