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そういえば「ドラゴン配送屋」にも手作りの看板がかかっていた。
その看板からは、毎日を真面目に送っている姿が見えてくるようだ。店を出入りする配達員たちも勤勉に働いていて、その実直さが伝わってくる。
善良な夫婦。人のいい配送員。みんな宝石泥棒とは思えない。
ドラゴン配送屋の下宿には、マルセルの他にも二人下宿しているらしい。お金を払えば食事もつくらしい。
「散らかってるけど、どうぞ、エリザベートさん」
マルセルはそう言ったが、部屋は片づいていた。簡素な造りの部屋に、必要最低限のものが整頓されている。棚の上に飾ってあるチェスボードが気になった。チェスの駒がとても凝った作りだ。こんな綺麗な駒、初めて見た。
「ああ、ドラゴンの牙で作った駒だよ」
マルセルはなんでもないことのように言う。
「すごい……すごいわ。綺麗ね」
駒を持って、何度もそう言った。牙から作った宝石とでも言ったらいいのだろうか。石よりも滑らかで、光沢があり、大変美しい。宝飾品のように綺麗だ。
「今度、ドラゴンの牙が手に入ったら、なにか作って上げるよ」
「本当? うれしい!」
エリザベートは近くにあったクッションに勝手に座った。
「あ、そのエリザベートって呼びかただけど、バレたくないから、違う名前で呼んでもらえる?」
「バレる?」
「そう。私、緑の国ブルーテ王国の王位継承権八位のエリザベートなんだけど。気づかなかった?」
大陸の真ん中に、緑の国ブルーテ王国はひっそりとある。
周囲は小さな国に囲まれているが、北には不戦主義国フリーデン王国、東には大国オーステン国、北東には海の都シュトローム国と、大きな国とも隣接している。
そんな中、緑の国ブルーテ王国はいつも平和で自然に満ちた、農業を主な産業とする小国として存在している。
この王国は、普段は大きな事件の起こらない平和な、悪く言えば田舎の小国である。
王族は国王と妃、そして王子と王女が十一人いる。
エリザベートは上から八番目に産まれた王女だった。運良く王族として生まれた彼女であったが、その後は脚光を浴びることもなく、国民からもなかなか覚えてもらえなかった。
二人の兄と二人の姉は跡継ぎ候補として大切に育てられ、国民からも祝福された。
その次に産まれたのは、なんと三つ子の姫であった、しかも輝くような金髪の天使のような美少女であった。
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